都内にある自宅と本屋さんの中間のような場所、Daily Practice Books。住所非公開で自宅を本屋として毎週末に解放しています。そんなDaily Practice Booksを営む堅田真衣さんにDaily Practice Booksという場所を作ることやメンタルヘルスのことについてお話を伺いました。
家族でも友達とも違うけどいろいろ話せる仲間が集う場所
ーDaily Practice Booksは住所非公開で土日に自宅で開かれている本屋さんです。
約2年前にオープンしたのですが、本屋をやろうと思ったのがかれこれ5年ほど前。そこから2〜3年かけて場所を探したり、本屋の構想を練ったりしていました。
ー自宅で本屋を開く、かなりのビックプロジェクトですよね。
一度、部屋をぶち抜きにして一から内装を作り上げています。かなりゆっくり作業をしていたので、壁は半年くらいかけて塗っていたんじゃないかな。
ーすごいですね。
基本的に一人で塗装作業をしていたのですが、友達を呼んで一緒に手伝ってもらうこともありました。そこから「いま、あの家に行ったら壁を塗れるらしいよ」とか「こんなに広い面積を塗れることはあまりないよ」と、DIY好きの友人づてに噂が広まって、塗装付きの人が週末集まるほどにまで(笑)。
ーオープンした現在も、本を読みたい人やイベントをやりたい人がいたら招き入れてくれたりとオープンな場所ですよね。
自宅を開いていたら楽しそうだな、そういう場所があったら私も行きたいなと思っていたんです。
土地に明確な区切りや所有意識があることに窮屈さを感じていたり、上京したときにコミュニティが存在しているのも少なからず感じていたりして…。みんながブロッキングされた場所で暮らしている様子に寂しさを感じていました。そういう境界線のない場所に私がいきたいと思っていたのが、いまの形ににつながっているんだと思います。
ー本屋を始めようと思ったきっかけは何だったんですか?
小さい頃から本が好きで集めていたのですが、これまで収集してきた本が溜まったときに、チェーンの古本屋で売るのは少しもったいないなと思っていました。そんななかで、本屋や図書館、家の本棚があるけどそもそもこの本を私が持っているのにはどんな意味があるんだろうっていう問いのゾーンに入ったことがきっかけです。
ー特定のコミュニティに染まっていないからこそ、来たことがない人でも入りやすいですよね。本屋を始めてから変化はありましたか?
初めて会った人だからこそかもしれないですが、世間話ではなく愛ってなんだと思う?みたいなことを気軽に話せるような人とのつながりが増えました。家族でも友達でもなくいろいろ話せる仲間です。あとは外でも自然とそういう人間になっていくような感覚は変化としてあるかもしれないです(笑)。
年を重ねるにつれ自分が繊細になっていく
ー本棚にはフェミニズム系の本もたくさん置いてありますが、真衣さんの興味関心からですか?
そうですね。大学や就職を経てさまざまな積み重ねで違和感が大きくなっていき、ここ数年で生活のなかに潜む不平等や偏見に気づくことが増えました。小さい頃、兄弟が通っている空手教室に行くと、「真衣ちゃんもやってみる?」と教室の先生が言ってくれたんですけど、私は女の子だからいいやって断っていたのもいま思うと不思議(笑)。フェミニズムの本を読むようになってフェミニズムに対する考え方が開眼していきました。
ーそれでフェミニズムの棚がそろっていったんですね。
これまで読んできた本や漫画を読み返すと、ジェンダーの観点から良くない本もあるけど、自分の植え付けられた価値観をときほぐすという意味ではそういった本も読みたいし、ジェンダー的に良くないものを禁止するのではなくて、勉強して知識をつけたうえでいろんな本をフラットに読みたいです。
ー運営するなかでもフェミニズムの問題を感じることはありますか?
この場所を運営していると、女性が1人で自宅を解放してやることを心配してくれる方もいるのですが、もし私が男性だったらこうはならなかったんだろうなと思います。
本来だったら平等に権利があるはずなのに、女性というだけでそれが当たり前にできないことに違和感があります。なぜ自分はこういうときに檻に触れて恐怖を感じなきゃいけないんだろうって。恐怖を感じることなく、もっと伸び伸びと暮らせる世の中になったらいいですよね。
ー紡はメンタルヘルスについて気軽に話せるコミュニティですが、これまでメンタルヘルスについて考えることはありましたか?
まぁいっかと思うような性格だったし、割とベースがポジティブ。ただ、悪いことではないけど年々自分が繊細になっていくような感じはあります。これまでは将来への漠然とした不安を感じたことがなく心のバランスが崩れる感覚が分からなかったけど、生きれば生きるほど、打たれ強さや自分への自信がむしろなくなっていっているような感覚。
ーそれはなぜなんでしょう?
自分が変わり始めたタイミングで本屋をやることを決意して、すぐにコロナ禍になってしまったんですけど、その時に毎日をどう生活するかについて考えることが増えたからだと思います。
お店の名前をDaily Practice Booksという名前にしたのは、自分の人生を構築する日々の暮らしが自分にとっていいものだったらうれしいと考えていたことを、生活の実践的にやってみようと思ったから。
そうすると、今までは思考停止気味になっていたのに日々の一挙手一投足や自分が感じてることについて、どんどん敏感になっていく。そのことをマイナスに捉えてはいないですが、昔はもっと何も知らなかったし考えていなかったからある意味無敵状態だったのかも。
悩んでいたときに救われた大切な一冊
ー日々、メンタルヘルスはどのように保っていますか?
ノートに書き出したり睡眠をとったりすることもセルフケアとして大切にしているのですが、やっぱり読書かな。だからこそなのか、自分がモヤモヤしていると読む本のアンテナが変わるかもしれないです。
昔の方が本にエンタメ性を求めていることが多かったんですけど、だんだんとこれって何なのか知りたいって思うようになってきて、理論書や専門書を読むようになってきました。でもそうなってくると小説とか文芸からちょっと遠ざかって読書に幅や余裕がなくなってくるのは最近ちょっとだけあって。またこんな本買って…もっと純粋に楽しむための本を買いなよ、みたいな(笑)。
ー確かに気分によって選ぶ本って違いますよね。
タスクが溜まっていたり余裕がなかったりすると、自然と本を読まない状態になるときもあります。それがメンタルのバロメーターになるから自分の状態にも気づけるし、意図的に本を読む時間を作ると、やっぱりこの時間いいなって思う。
ー落ち込んだ時にいつも読む、真衣さんにとって処方箋のような本はありますか?
対人関係で悩んでいたときに救われたのが安達茉莉子さんの『毛布-あなたをくるんでくれるもの』。つらかったときのことを思い出して泣いたりしつつ、ちょっとスッキリする、救われた一冊です。失恋して落ち込んでいた友人にもプレゼントしました。イラストもかわいくて絵と文章両方で癒してくれます。Daily Practice Booksでも今後、新刊として取り扱いたいなと思っています。
ー今後、Daily Practice Booksがどんな場所であり続けたいですか?
自分が疲れない範囲で、不定期だけどゆるく継続することが大事かなと思っています。今日はやっぱりお休みしますとか、月に2,3回だけオープンするのがあってもいいし。ベースが本屋さんなので、来てくれる方に明確な何かをしてあげられるわけじゃないけど、こういう感じでもいいんだと自分を許してあげながら細々と続けていきたいですね。
Interview:Haruki
Text: Haruki
Photography: Kazuya Taketa
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