「心が壊れる前に、自分を応援する力を」ライフコーチNOAが語る、心を守るということ
- Haruki
- 7月25日
- 読了時間: 11分
更新日:8月4日

メンタルヘルスやコーチングという言葉が、まだ今のように一般的ではなかった10年前、メンタルヘルスや自分の声に目を向け、自分を応援する手段としてコーチングを始めたNOAさん。現在は、子どもから大人まで自分が自分を応援してあげる手段としてのコーチングを展開。「孤独をふせぐ」という独自の視点を大切に、目の前の人に寄り添う活動を続けています。
今回のインタビューでは、コーチングとの出会いから、子どもとの対話で得た気づき、10年間コーチングを続けて見えてきたことなどを伺いました。
体が健康であるための予防策はある。心が健康でいるためには…?
──コーチングに出会ったのは、どんなきっかけだったんですか?
コーチングに出会ったのは19歳の時で、たまたまFacebookでコーチングってワードを知りました。
高校1年生の時、鬱で外に出られなくなってしまった時期があって。その後、高校を辞めて留学を決意したのですが、それまでの経験を通して漠然と人の心に携わる仕事がしたいと思うようになったんです。
でも当時、メンタルヘルスにアプローチできる手段として、カウンセリングしか知らなくて……。治療するというより、その前の段階で心に寄り添うようなアプローチはないのかと考えていたんです。実際に自分に合うカウンセラーさんに出会えず、これは本当に根本解決になるのかな?と感じることも多くて。
もっと自分の頭で考えたり、自分の足で立つためのサポートができるような仕事はないだろうか、そんなアンテナを張っていた中で、コーチングに出会いました。その時、直感的に「あ、これ私がやりたかったことかもしれない」と思ったんです。
──当時はコーチングという言葉も今より浸透していなかったのでは?
コーチとしてデビューしたのは2015年でした。今でこそコンビニにもコーチングの本が置いてあるくらい身近なものになりましたが、当時は「コーチングって何を教える人なの?」と言われることも多かったです。
コーチングやメンタルヘルスという言葉が浸透してきたのはここ5年くらいの話で、当時はコーチだけでなく、コーチングを受けている人もほとんどいなかったのではないでしょうか。
──まだコーチングが浸透していない時期にコーチとして活動するしんどさや壁はありましたか?
ありがたいことに、必要としている方が自然とコーチングを受けに来てくれていたのですが、同業者の中には、人のためではなく自分を救うためにやっているのでは?と感じる人も少なくなかったです。
当時はスピリチュアルと結びつけてコーチングを広めている人も多く、そうした風潮に対して苛立ちを感じていた部分はあったかもしれません。

──そもそもNOAさんがコーチになろうと思った背景は?
二つあって。一つは、中学生の時に所属していた陸上部の顧問の先生が「いかにメンタルがパフォーマンスに影響するか」ということを話してくれる人だったことから、メンタルについて興味を持ったこと。陸上という、数字がすべての競技のなかで、気持ちひとつで本来出るはずのないタイムが出たり、その逆も起きる。そんな経験を通じて、メンタルの不思議さに惹かれていきました。
もう一つは、鬱を経験したこと。心が壊れて何も出来ず、自分が自分でなくなってしまったような感覚になった経験を通して、そもそも心が壊れる経験ってないに越したことないよね、と思ったことでした。心が壊れてしまった後に対処するのではなく、それを予防することが大切なんじゃないかなと。
体の健康には予防策やツールがたくさんあるのに、心の健康にはなぜないのだろう──そんな素朴な疑問から、心に携わる仕事に興味を持つようになりました。
──そこからコーチになるためにスクールに通い始めたと。
ビジネスとして大きくしていこうという思いはなく、コーチになってコーチングを届けたい、広めたいという思い一つでずっとやっている感覚です。なので、勢いで開業届を出していましたね。
日々の悩みに対して、いろんな「かもね」を考えらえるように
──カウンセリングとコーチングって具体的にどう違うのですか?
カウンセリングもコーチングも対話を扱う職種なので手段は似ていますが、職業としてのゴールが違います。
カウンセリングは心の問題を解決・治療することが目的。ですが、コーチングは問題を解決したり、ゴールに導いたりはしません。コーチングの唯一のルールはアドバイスをしないこと。目標に近づける自分になるために、さまざまな角度からフィードバックしたり質問を投げかけたりして、相手の中にある引き出しを開けていく、というイメージですね。
──現在の活動について教えてください。
個人と企業、子供向けのコーチングの3つを軸に活動していて、6歳のキッズから50代の方まで日々コーチングをしています。目標達成というよりも、自分や誰かを応援しあえる環境を増やすツールの一つとしてコーチングを広めたい思いがあるので、「コーチングで孤独をふせぐ」という自分のミッションに少しでも近づけるように日々取り組んでいます。
──子ども向けのコーチングって珍しいですよね。
幼少期から、自分を応援できる心や、自分の心と向き合う時間や思考があった方が生きやすいのではないかという自然な感覚から始めました。
以前から子どもに対してもコーチングを届けたいと思っていたのですが、ここ数年でそれにチャレンジする土台が整って自信がついたのも大きかったかも。
──始めてみてどうでした?
6歳くらいの子だと、悩みを話すというよりは自分だけの時間があることに価値を感じてくれています。毎週のセッションを楽しみにしていて、「この時間は私の時間だから、ママはどっか行ってて!」と言ってくれる子も(笑)。コーチングがサードプレイスのような役割を果たせているのを感じます。
印象的だったのは、小学3年生の子が「こういうことがあって、だからこれについて一緒に考えたい」と言ってくれたこと。「どうしたらいい?」ではなく、「一緒に考えたい」と言ってくれたのが、まさにコーチの存在意義だと感じました。

「明日はこうしてみようかなと思えた」とか、「自分はこう考えていたけど、ノアちゃんはどう思う?」といったやり取りからも、安心して話せる場所を作れているんだなと実感しますね。
「ノアちゃんとの時間があるから、悩みに対していろんな“かもね”を考えられるようになった」っていうお手紙をもらった時も、選択肢がその子の中で増えていることがうれしくて、少しずつでもタネが撒かれているなと。
──家と学校以外の安心できる場所を持てるのって大切ですよね。
そうですね。そういった場所はネットでもリアルでも、いくつあってもいいと思います。
──NOAさんは、コーチングに留まらずボディポジティブなどさまざまな発信もされていますよね。そういうことを発信するのに勇気がいると思うのですが、原動力は何なんでしょうか?
コンプレックスの捉え方を変えたら自分をもっと活かせるのでは、というコーチングの角度からボディポジティブについての投稿を始めました。もちろん、自分の体を晒すのはいろんな怖さがあったけど、それ以上にやりたいという気持ちの方が勝っていました。
他人からどう思われるかよりも、共感してくれる人や、これをきっかけに心が軽くなる人がいるかもしれない、そんな期待感がありましたね。それと同時に「私の怒りを聞いてほしい」という気持ちも原動力の一つになっていた気がする。
──怒りもキーポイントになっているんですね。
ちょっとくさい言い方ですが、怒るのは愛を信じているからな気もしています。その怒りには期待を込めているので、愛に包まれている怒り。「もっといい社会にできるはず」「こんなもんじゃないはず」という、希望から生まれる怒りが私のパワーになっています。

どう対処するかよりも、どう扱うか
──NOAさん自身はコーチングに出会ってどんな変化がありましたか?
すべてが変わったと言っても過言ではないくらい、いろんな変化がありました。私はコーチングを「自分や大切な人を応援するスキル」として捉えていますが、自分を自分で応援し続けられるってすごく大切なこと。
辛いことを多角的に見られるようになったので、負の気持ちに入り込んでいかない感覚が分かったり、自分の気持ちを自分で整理できたりするスキルが高くなりました。自分の気持ちに対する解釈の仕方や捉え方の幅が広くなったことで、自由になった感覚。
──しんどいことが降りかかってきた時に対処の方法が分かる、みたいな?
そうですね。どう対処するかというより、どう扱うかがうまくなったなと思います。私は親子間とパートナーシップ間のコミュニケーションに苦手意識がありました。思っていることを言えずに自己完結していまい、大切なことを相手に言えなかったんです。
ただ、コーチングを通して「なぜ言えないのか」だけではなく、「それを伝えた時に、何が怖くて言えないのか?」といった問いを自分に投げかけられるようになりました。一つひとつ紐解けるようになっていくことで、「私の中にはこの気持ちとこの気持ちがあって……」と伝えてもいいんだって。その先に、他者との関係も良くなっていくんです。それで「自分、進化してるかも?」って。
──日常生活で、心や体をリラックスさせるために意識している習慣はありますか?
そもそもメンタルを落とさないでいようという気持ちはあまりないですね。落ちるものは落ちるし、って思ってる。維持しようと言うよりは、日常的にノートに書いたりセルフコーチングを意識しているかな。あとはめっちゃ寝る(笑)。
音楽も好きなので月に1回は絶対ライブに行っています。自分のアティテュード次第でいろんなメッセージを届けられる姿を見てエンパワメントされています。
コーチングができる人を増やす

──コーチングを職業にすることの魅力はどんなところにありますか?
コーチングって、いろんなものとかけ算ができるんです。自分の興味があることに組み合わせながら展開できるので、飽きないですね。この仕事を選んでよかったと思っています。
10年続けてきて、以前よりメンタルヘルスについてオープンに話せる空気が少しずつ広がってきたのもうれしいこと。続けることの大切さを身にしみて実感しています。
──コーチになってから今年で10年目。コーチングを始めた中で気づきはありました?
10周年というワードで言うと、続けることの強さを感じています。強制的に続けなければいけないという意味ではなく、続けたからこそ見えてくるものがあるし、絶対にないと思っていたことが起こる。自分的には、続けてきたぞというよりも辞めなかっただけという感覚が強いですが。
──今後10年間のプランはありますか?
原点に戻って、コーチングを広める側になっていきたいです。自分が誰かのコーチになることはもちろん、コーチングをできる人を増やす方が自分のビジョンに近づくので、コーチングを教える、伝える、広める人になっていきたいですね。
──そう思うようになったきっかけはあったんですか?
ここ2年くらい、子ども向けのコーチングに振り切って活動する中で、自分がやるだけでなく、コーチングができる人を増やした方が早いんじゃないか、というシンプルな感覚があって。
ワークショップに参加しても、家や学校に戻れば、そこで得た感覚が流されてしまうことも多くて。大切なのは、その感覚をどう根付かせていくか。だからこそ、誰かのコーチになれる人を増やすことが次のステップだと思っています。
今は、コーチングの基本を伝えるオリジナルの講座を構想中です。(現在は、「自分と大切な人を応援する力を上げ、心のヘルシーをつくるコーチング基本のキ。【暮らしのコーチング】」をローンチしました)それと、メンタルヘルスのツールの一つとしてコーチングを発信するために、文章や音声など、発信のかたちも模索しています。
──最後に、いまコーチとして伝えたい思いや、読者へのメッセージがあればお願いします。
最近は、メンタルヘルスやセルフラブ、ボディポジティブといった大切な言葉たちでさえ、消費のきっかけとして扱われたり、「自分を大切にすることが正解」といった一面的な伝え方をされることに、違和感や怒りを感じています。本質から離れた表現やうわべだけをすくってビジネスにされてしまうことには、正直モヤモヤします。
メンタルが落ちている時って、無意識のうちに自分を傷つける言葉を自分でかけてしまっている時も多いと思うんです。だからこそ、自分が自分にかける言葉に一度アンテナを向けてみてほしい。すぐに何かを変える必要はなくても、本当にそれでいいのかな?と、立ち止まってみるだけでも、そこから新しい気づきが生まれることがあります。
自分の気持ちをちゃんと扱うこと、その入り口として、コーチングはとても有効なアプローチだと思っています。皆さんも、もし機会があればぜひ触れてみてください。
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